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大阪地方裁判所 昭和42年(行ウ)113号 判決 1971年2月25日

原告

中井英信

代理人

松尾利雄

被告

寝屋川市長

北川義男

代理人

俵正男

重宗次郎

主文

原告の本訴請求のうち、大阪府収用委員会がなした裁決中、損失補償金額の変更を求める訴を却下する。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

(原告)

「一、大阪府収用委員会が、被告の土地収用裁決申請に対し、昭和四二年八月一日付をもつてなした別紙第一物件目録記載の土地の収用により原告のこうむる権利消滅についての損失補償額を一一、〇九六、九四二円としたのを金六八、七二三、二〇〇円に変更する。

二、被告は原告に対し金五七、六二六、二五八円およびこれに対する昭和四二年一二月二日以降支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

三、訴訟費用は被告の負担とする。」

旨の判決

右のうち金員支払請求部分につき仮執行の宣言。

(被告)

「一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決<以下略>

理由

第一まず、原告の「大阪府収用委員会がした裁決中損失補償額の変更(増額)を求める訴え」の当否について判断する。

原告は、土地収用に伴う損失補償金五七六二万六二五八円(但し収用裁決による金額との差額)の支払い請求とともに、その前提として、「大阪府収用委員会が昭和四二年八月一日になした本件裁決中、損失補償額金一一〇九万六、九四二円を金六八七二万三、二〇〇円に変更する」旨の裁判を求めるので検討するに、土地収用金一三三条の損失補償に関する訴訟は、同条二項に明定するとおり、その法律関係の当事者の一方(起業者、土地所有者又は関係人)を被告とするもので、行訴法四条にいう当事者訴訟である。したがつて、収用裁決そのものの取消しを求める抗告訴訟(行訴法三条、この場合は同法一一条により収用委員会が被告となる)とは区別されていること法律上明らかである。その区別されている理由は、土地収用法一三三条は、収用裁決について収用自体に不服がなく、損失補償金額のみについて不服ある場合、利害は一にかかつてその法律関係の当事者(起業者、被収用者)間の問題であり、かかる場合は、裁決の取消しという抗告訴訟形式により行政庁を被告として争わしめる実益は殆んど考えられないから、補償金を支払う立場の起業者と、これを受ける被収用者又は関係人間で、当事者訴訟形式によつて正当補償額を決みる建前をとるのがより適当であるとの考え方に立脚したものであると解せられる。そして、土地収用法は損失補償金について前払い主義をとるから(一〇〇条、九五条)、正当補償額との差額(増、減額分)について、起業者と被収用者又は関係人間で給付請求(又は確認請求)訴訟、すなわち当事者訴訟で十分その目的を達しうるのであつて、ことさら「行政処分の変更」という訴訟形式をここに持込むことは、法律上の根拠も又その実益も存しないというの外はない(最高裁判所昭和二七年八月二二日判決、民集六巻八号七一二頁参照なお、「行政処分の変更」という訴訟形式行政庁を被告としない無名抗告訴訟的形式は、行訴法三条、四条、一一条、なお同法三八条、四一条、四三条等との関係上、当然、法律事項であり、明文の根拠を要するものと考える)

以上の次第で、原告の本訴請求中、大阪府収用委員会がした裁決中損失補償額の変更(増額)を求める部分は、不適法としてこれを却下することとする。

第二つぎに、原告の損失補償金支払請求につき考える。

一原告の請求原因第一項の事実(但し、原告が転借権を有するとの点を除く)、同第二項の事実中寝屋川市(当時寝屋川町)が大阪府から商店街土地を公共用施設の敷地として借受けこれを原告外二名を代表者とする振興商店街に使用させたこと、原告が振興商店街の構成員で商店街土地の一部である本件土地上に店舗を建設してこれを占有使用していたことおよび同第三項1の事実は当事者間に争いがない。

二そこで、まず本件収用により消滅した原告の本件土地に関する権利が適法なる転借権であるか否かについて考察するに<証拠>を総合すれば商店街土地はもと大阪府所有の寝屋川廃川敷地四一24.13平方メートル(一、二四七坪五五)の一部で寝屋川市(当時寝屋川町)は昭和二〇年一二月二一日付をもつて大阪府知事宛その使用願を提出し、同知事は昭和二一年二月二五日使用目的を公共施設の建築用地とし、使用料年額金五六一円三九銭(3.3平方メメートル当り約四五銭)、期間昭和三〇年一二月まで、右期間中といえども大阪府において必要あるときは無償にて契約の解除をなしうることその他の条件を定めてその使用を許可したこと、一方原告および清水貞三、杉本金馬の三名は右廃川敷の一部を利用して商店街を経営しようと考え、前掲振興商店街の代表者となり、寝屋川市(当時寝屋川町)に対し商店街設置のため商店街敷地の使用を許可せられ度き旨申入れ、昭和二三年一〇月ころ使用料年額金二三五円五七銭(3.3平方メートル当り金五一銭一五)、期間昭和三三年一〇月二四日まで、右期間中といえども寝屋川市(当時寝屋川町)において必要あるときは契約の解除をなしうることその他大阪府と寝屋川市(当時寝屋川町)との間の廃川敷地の貸借に付せられた条件とほぼ同一の約定で廃川敷中商店街土地部分の使用を許可されたこと、右廃川敷は免租地であつたが当時その近傍の宅地の地租は3.3平方メートル当り金三〇銭ないし七〇銭程度であつたこと、被告と振興商店街との商店街土地の使用料はその後二回ほど固定資産税評価額の改訂にともないこれに準じて変更されたがその額は近傍土地の固定資産税と同程度のもので、寝屋川市もしくは寝屋川町が大阪府に支払つた使用料と同額であつたこと、振興商店街の右土地使用を大阪府において黙認したこと、以上の事実が認められる。

原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は採用しない。

以上認定の事実関係をもととして考えれば寝屋川市(当時寝屋川町)において振興商店街から使用料名下に定額の金員を徴収していたとはいえ、その額は近傍地の公租公課相当程度の名目的なものであつたのであるからこれをもつて直ちに商店街土地使用の対価と解することはできず加えて寝屋川市(当時寝屋川町)と振興商店街との商店街土地の前示貸借成立の経緯、その契約内容その他前示の諸般の事情をあわせ考えれば右貸借はその実質において無償のものすなわち使用貸借契約であつたものと解するのを相当とする。

もつとも収用裁決申請前の協議の段階で被告は原告に対し、原告が本件土地の賃借権を有するとの前提で交渉にあたつたことがあることは被告の自認するところであり、<証拠>によれば寝屋川市は振興商店街との間に本件土地を除く商店街土地につき借地権譲渡契約を締結し、借地権譲受けの形式により補償をしたことが認められるけれども前掲証人西尾寿恵男の証言、弁論の全趣旨によればそれは本件事業計画が昭和三三年三月に決定していたのに被告と振興商店街ないし原告との立退交渉が容易に進渉せず(原告を除く振興商店街の構成員全員の立退が完了したのが昭和三七年であることは当事者間に争いがない。)本件事業計画の早期円滑な実施をはかる必要に迫られたため採られた便宜の措置と認められるから被告が振興商店街あるいは原告に対し前記のごとき前提で補償ないし交渉をしたことがあるとしても、寝屋川市もしくは寝屋川町と振興商店街との貸借が使用貸借であるとの前示認定の妨げとなるものではない。

そして寝屋川市と振興商店街との商店街土地の使用貸借契約の約定期限が昭和三三年一〇月二四日であつたことは前認定のとおりであるから右契約は同日の経過により消滅したというべく、(なお、<証拠>によると、右期限直前より、本件都市計画事業逐行のため、引き続き原告に対して本件土地の返還請求がなされたことが認められる。)それ以降原告は正当な権原なく本件土地を占有するに至つたといわなければならない。

右認定に反すする原告本人の供述は採用できない。

よつて、原告が本件土地につき適法に転借権を有することを前提とする原告の主張は理由がなく、原告の本件土地に関する権利消滅による損失補償額は到底裁決額を超えるものと認定できないことは次項認定のとおりである。

三仮りに原告がその主張のごとく、本件収用裁決時まで本件土地につき適法に貸借権(転借権)を有していたとしても、後記判示のとおり原告の損失補償請求は理由がない。すなわち、

<証拠>によれば本件土地は京阪電鉄寝屋川駅西側ホームの南に接し、同駅前広場の南々西方約五〇メートルの地点に所在し、東は直ちに京阪電鉄の軌道敷により西約二五メートルで寝屋川河川によつて狭まれた南側東西の間口約五メートル、南北の奥行約四〇メートルの不整形平担地でその南側は幅員約六メートルの舗装公道に等高に接し、市役所その他の公共機関、金融機関に近接し各種小売店舗の集中する商業地域で本件土地一帯は寝屋川駅西口に孤立した一画地を形成し軌道敷と河川によりはばまれて、他の商店の連続性を望めない立地条件下にあり、客足の流れが固定集中する大阪府下における他の衛星都市の繁華街に比して繁華度が劣り収益性もはるかに劣位にあつて大企業による利用か相当願客を吸引する能力のある企業の進出以外本件土地を有効に利用することは困難であること、以上の事実が認められ右事実と<証拠>を総合判断すれば本件裁決時(昭和四二年八月一日)における本件土地の価格は一平方メートル当り金一二七、〇〇〇円をもつて相当と認められ(右認定に反する甲第二ないし四号証、原告本人の供述は採用できない。なお別紙第二、取引事例一覧表(同一覧表記載の各取引がなされたことは争いがない。)記載の各土地は、その立地条件において前記の如き本件土地の立地条件より良いか、もしくは金融機関の取引にあつては金融機関の性格性、取引物件が場所的に限定されるため正常価格を上廻つて取引されることが多く、本件土地と所在位置、近隣の状況等の点において比較的類似の条件下にある同表番号(1)の住友銀行用地の取引事例(3.3平方メートル当り金八〇万円)においても多分に思惑的要素を含んだ価格で取引がなされたものと解されるのでただちに本件土地の価格の認定資料とはなし難い。)そして前掲甲第二ないし第四号証ならびに本件に表われた諸般の事情(例えば、原告は本件土地使用につき権利金を支払つたということがないし、使用料額が極めて低額であるということ等)を総合考慮すれば本件土地に対する借地権割合は五割、借地権に対する転者権割合は七割をもつて相当と認められ、また本件土地の収用面積が249.65平方メートルであることは当事者間に争いがないから右により算定した金一一、〇九六九四二円(裁決額どおり)が原告に対する損失補償額として相当である。

四ところで、その余の損失補償額については原告は不服申立をしないから、原告に対する本件収用による損失補償額は裁決額を以て相当とするところ、右同額の補償金が被告から原告に対し支払済であることは原告の自認するところである。

第三以上の次第であるから原告の本件裁決にかかる補償額の変更請求は却下し、損失補償請求は棄却することとし、民事訴訟法第八九条により主文のとおり判決する。(井上三郎 矢代利則 中野保昭)

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